- 作者: Mike Julian,松浦隼人
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2019/01/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あまりにシンプルなタイトルで話題になっていた「入門 監視」を読みました。
プログラミング本で言うと「リーダブルコード」くらいの判型と厚さでサッと読めて、自分たちがやっている監視を見直すきっかけになる良書でした。
内容の簡単な紹介と、個人的な感想(というか読みながら考えたこと)をメモしておきます。
内容の簡単な紹介
本書は二部構成です。
前半(第I部「監視の原則」)では、「監視」を考えるときに出てくる基本的な用語の解説と、監視でやりがちなアンチパターンとその逆(デザインパターン)が手短にまとめられています。メトリクス、ログ、インシデント管理といった基本的な用語から、中央値やパーセンタイルといった監視ツールでよく出てくる統計用語まで触れているので、いままで監視に関わっていないようなエンジニアでも読みやすいと思います。
後半(第II部「監視戦略」)では、いくつかの章に分けて、具体的な監視項目と、そのために使える手段を解説しています。本書の良いところは「ユーザ視点での監視」の重要性が強調されているところで、章の並び順もそうなっています。
- ビジネスを監視する(5章)
- ビジネス KPI(月次経常利益など)や、コア機能が利用される頻度など
- フロントエンド監視(6章)
- 実際のユーザが見ているページのロード時間など
- アプリケーション監視(7章)
- アプリケーションのメトリクス・ログ、ヘルスチェック、分散トレーシング
- サーバ監視(8章)
- OS のメトリクス、SSL 証明書、Web、データベースなどなど
- ネットワーク監視(9章)
- SNMP の基本的な解説など
- セキュリティ監視(10章)
- コンプライアンス規制を満たしていることを監視で確認する例
本書では全体を通して、監視の SaaS サービスを活用することを推奨しています。本書の付録には Mackerel プロダクトマネージャの @songmu さんによる「実践 監視 SaaS」がついていて、監視 SaaS を使ったことがない人向けのよい入門になっています。
感想
ビジネスに関する監視をもっと増やしてみたくなる
ユーザ視点での監視が重要、というのは常識として理解しているつもりでしたが、本書でビジネス KPI の話が最初に来たのはちょっと驚きました。
また、コア機能の利用頻度については、Yelpの例では「検索実行」「レビュー投稿」などの回数が監視対象に挙げられてました。ビジネス KPI はキャパシティプランニングにも直結するところなので、継続的に追うのは重要ですよね。
いまの現場でも運用コストについてはある程度可視化されているのですが(参考:re:dashでAWSのコストを分析してみた)、ビジネスに関する監視をもっと増やしてみたくなりました。
クラウドサービス前提の話はほとんどない
本書全体を通して、AWS や GCP に関する話はほとんどありませんでした。監視の基本は変わらないから、あえて触れていないのだろうと思います。
AWS などのクラウドサービスを使う場合、CloudWatch のようなビルトインの監視サービスが使えることと、ネットワークが抽象化されているので本書の「ネットワーク監視」の範囲はあまり関係ない、というくらいでしょうか。
分散トレーシングの監視は難しい
マイクロサービスと分散トレーシングについては、7章「アプリケーション監視」のなかに含まれていました。本書の著者は、分散トレーシングは非常に時間と労力がかかるので、他の手段で監視できるならそちらを用いるべき、というスタンスでした。
分散トレーシングは、正しく実装するのは非常に難しく時間がかかる監視の仕組みであり、業界内の一部でだけ役に立つものです。分散トレーシングは根気がない人や、スタッフ不足だったり過労気味のエンジニアリングチームには向いていません。必要なメトリクスやログはすべて取得していて、それでも分散システムにおけるサービス間のパフォーマンスを把握したりトラブルシューティングをするのに困るようなら、分散トレーシングを使うべきかもしれません。(p.106)
確かに、Zipkin を導入するためのコスト(監視システム側の構築・運用の複雑化に加えて、アプリケーション開発者での配慮も必要になる)が、そこから得られるメリットに見合うかどうかは、場合によるだろうなあと思います……。
監視システムの開発・維持は本書の対象外
本書を読んでいると監視を改善するアイディアはいろいろ浮かびますが、一度監視項目を設定しても、サービスを開発・運用していると状況は色々変わって、実態に合わなくなるものです。この監視の仕組み、システムをどう開発・維持するかは本書の対象外で、そこから先に興味を持ったら DevOps や SRE の本に移るのが良さそうです。
ともあれ、いろいろ考え直すきっかけになる良書でした。
- 作者: Mike Julian,松浦隼人
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2019/01/17
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