- これまでのあらすじ
- Phoenix アプリケーションの情報に関するネット上の情報
- ansible-elixir-stack の使い方
- ansible-elixir-stack は自動アップグレードをどうやって実現しているのか?
- この方法の懸念点
これまでのあらすじ
Elixir の世界には、Ruby での Ruby on Rails に相当する "Phoenix" という Web アプリケーションフレームワークがあります。しかし、Capistrano に相当するものは無くて、デプロイの考え方は Rails とはだいぶ違いそうです。
前回は Elixir の世界のビルドツール Elixir Release Manager (Exrm) で作った tarball をデプロイする方法について紹介しました。ただし、upgrade コマンドで無停止アップグレードしたいなら、ビルド環境には最新のソースコードだけでなく、アップグレードする前のバージョンのビルド結果も置いておかなければいけない(!)という話をしました。
今回は、この Exrm を使ったビルド方法の話の続きです。
Phoenix アプリケーションの情報に関するネット上の情報
Phoenix アプリケーションのデプロイについてネット上の情報を探したところ、(検索ヒット数はかなり少なかったのですが)ansible-elixir-stack という Ansible role と、その紹介記事が見つかりました。この Ansible role のコードを読んでみたところ、デプロイ方法がやっと理解できたので今回ご紹介します。
ansible-elixir-stack の使い方
ansible-elixir-stack は ansible-galaxy からインストールできます。
$ ansible-galaxy install HashNuke.elixir-stack
Phoenix アプリケーションの mix.exs に exrm を追加してから、
$ curl -L http://git.io/ansible-elixir-stack.sh | bash
を実行すると、その Phoenix アプリケーションのディレクトリ内に、Ansible の実行に必要なファイル(playbook や inventory など)が自動生成されます。自動生成された playbook は ansible-elixir-stack を呼び出して、inventory ファイルに記載されたサーバに Phoenix アプリケーションをデプロイします。
この ansible-elixir-stack という role は基本的にオールインワンなので、Nginx サーバなども自動的にインストールしてしまいます。開発環境の構築に使うならこのままでいいかもしれませんが、本番環境を構築する場合、これを参考に独自の playbook を書く必要がありそうです。
ansible-elixir-stack を実行するための手順については、以下のブログ記事で詳しく紹介されています。そのため、この記事では特に触れません。
https://blog.johanwarlander.com/2015/07/30/deploying-a-phoenix-application-using-ansible-elixir-stackblog.johanwarlander.com
ansible-elixir-stack は自動アップグレードをどうやって実現しているのか?
deploy_type 変数での動作の切り替え
ansible-elixir-stack を普通に使うと、前回のブログ記事に書いた「方法1. ソースコードをサーバに置いて、mix phoenix.server で起動」と同じように、サーバを1回停止して、再起動します。
ただし、deploy_type という変数に "upgrade" という値をセットしておくことで、無停止アップグレードの動作に切り替わります。この動作の切り替えについては Hot code-reloading のページ に記載されていました。今回はこちらの動作を解説します。
role 内部で実行されるコマンド
ansible-elixir-stack では、初回デプロイ時の playbook(setup.yml)と、2回目以降のデプロイ時の playbook(deploy.yml)が分かれています。ただ、いずれの場合も project.yml の以下の部分で git clone を実行し、サーバ上に Phoenix アプリケーションのソースコード一式をダウンロードします。
- name: "clone project" git: repo: "{{ repo_url }}" version: "{{ git_ref }}" dest: "{{ project_path }}" accept_hostkey: True force: True remote_user: "{{ deployer }}"
デフォルトでは project_path は /home/deployer/projects/{{ app_name }}
です。
そして、release.yml の以下の部分で、Phoenix アプリケーションをビルドします。ちなみに、mix は ~/.mix 以下にインストールされたファイルを使うため、bash -lc
の指定は必須です。
- name: "compile and release" command: bash -lc 'SERVER=1 mix do compile, release' chdir="{{ project_path }}" remote_user: "{{ deployer }}" environment: MIX_ENV: "{{ mix_env }}" PORT: "{{ app_port }}"
そして、最後の部分で、「git clone した最新バージョンのバージョン番号取得」、および「upgrade コマンドの実行」を行います。
- when: deploy_type == "upgrade" name: get app version command: bash -lc "mix run -e 'IO.puts Mix.Project.config[:version]'" chdir="{{ project_path }}" remote_user: "{{ deployer }}" register: app_version - when: deploy_type == "upgrade" name: set upgrade command set_fact: upgrade_command='rel/{{ app_name }}/bin/{{ app_name }} upgrade "{{ app_version.stdout }}"' - when: deploy_type == "upgrade" name: upgrade app command: bash -lc "{{ upgrade_command }}" chdir="{{ project_path }}" remote_user: "{{ deployer }}" environment: MIX_ENV: "{{ mix_env }}" PORT: "{{ app_port }}"
上記の upgrade コマンドの実行は、仮にアプリケーション名を sample_app、バージョン番号を 0.0.2 とすると、以下と同じ意味になります*1。
$ cd /home/deployer/projects/sample_app $ SERVER=1 mix do compile, release $ rel/sample_app/bin/sample_app upgrade 0.0.2
デプロイ作業を常にこの playbook で実行しているなら、デプロイ先サーバの以下のディレクトリには、前回のバージョンのビルド結果が残っているはずです。
/home/deployer/projects/sample_app/rel/sample_app/release/0.0.1
そのため、前回のブログ記事で問題に挙げた「ビルド環境に、アップグレードする前のバージョンのビルド結果も置いておかなければいけない」という条件はクリアされます。
しかし、そう考えると新しく追加したサーバにいきなりバージョン 0.0.2 をデプロイする、という場合にはどうなるのか?が気になります。そういうケースでは、git clone しても上記の 0.0.1 ディレクトリは作られません。ただ、その場合はアプリはまだ動いていないため、単にバージョン 0.0.2 のアプリが新たに起動されるだけで、特に問題は起こらないようです。
この方法の懸念点
サーバごとのコードの状態の違い
Capistrano の場合は、通常はデプロイするたびに新しいディレクトリで git clone が実行されます。そのため、すべてのサーバで、余計なファイルがない環境で最新のコードが実行されるという安心感があります。
一方、上記の方法では、force=Yes で git clone が実行されるとはいえ、すべてのサーバ上のファイルが同じにはならない可能性があるのが気になります。まあ、そんなことを気にするなら、無停止アップグレードは諦めて Docker でも使え、という話かもしれません。
バージョン番号を上げるのを忘れそう
この方法に限らず、Exrm の upgrade コマンドを使う場合に共通した問題ですが、デプロイのたびに毎回必ず mix.exs 内のバージョン番号を上げて、git push する必要があります。ちょっとした更新のたびにこれを実行するのはかなり面倒です。
def project do [app: :hello_phoenix, version: "1.4.1", elixir: "~> 1.0", ...
この問題への対応として、ansible-elixir-stack の作者は Hot code-reloading のページ にて「バージョン番号の末尾に Git のコミットハッシュ値を自動的につける」という方法を提案しています。
def project do {result, _exit_code} = System.cmd("git", ["rev-parse", "HEAD"]) # We'll truncate the commit SHA to 7 chars. Feel free to change git_sha = String.slice(result, 0, 7) [app: :hello_phoenix, version: "1.4.1-#{git_sha}", elixir: "~> 1.0", ...
もしこの方法を採用するなら、この対策は絶対に入れておいた方がよさそうです。
*1:SERVER=1 というのは ansible-elixir-stack が勝手に作ったフラグなので気にしないで OK です。